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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)709号 判決

原告 株式会社大和屋商店

右訴訟代理人弁護士 白井正実

同 田口公丈

同 飯村佳夫

被告 松本幸実こと 韓又小姐

右訴訟代理人弁護士 池内判也

主文

被告は原告に対し、金四四八、四三五円およびこれに対する昭和四二年三月七日から支払ずみまで、年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告において金一〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

〈全部省略〉

理由

原告が酒類等の卸、小売業を営むものであることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を綜合すると、原告は昭和三八年一〇月頃から大阪市東成区大今里南之町一丁目四七番地所在の洋酒喫茶「宝島」(以下、宝島今里店という)との間に洋酒類等の取引をしていたが、同年一一月頃、原告会社の代表取締役上向奈良男は当時同店を取仕切っていた朴達雄から「天下茶屋でも母が洋酒喫茶店を経営しているから洋酒類を入れて貰いたい。」旨の依頼を受け、直接同人の母である被告とも面接したうえ、同市西成区南神合町八番地の一五所在の洋酒喫茶「宝島」(以下、宝島天下茶屋店という。)との間にも、売買代金は毎月二五日締切り翌月一〇日払の約で、洋酒類等の取引を始めるに至ったこと、右各取引に際しては、その相手方から会社組織であることを知らされなかったので、右各取引による原告会社発行の売上伝票の名宛人欄には、単に、宝島今里店注文にかゝるものは「今里宝島」と、また宝島天下茶屋店注文にかゝるものは「天下茶屋宝島」と記載し、また、その売買代金は、右各店ごとに請求書を作成して請求していたが、右各店への売買代金は、被告がその都度、自ら宝島今里店へ出向いて、直接原告会社の集金人に支払っていたこと、被告は当初の間は、遅滞なく売買代金を支払っていたが、次第に、その支払を怠るようになり、被告の注文により、宝島天下茶屋店との間に、別紙売掛代金目録〈省略〉記載の如く、昭和四一年七月一日から同年一一月一七日までに取引された酒類等の売買代金合計金四七三、六九五円(瓶代を含む)は、同年七月一日から、同年一一月二七日までに合計金二五、二六〇円相当の空瓶が返還されたのみで、残金四七三、六九五円は未だにその支払がなされていないこと、そして、右各店は、いずれも、被告が代表取締役であり、大阪市東区本町一丁目三一番地に本店を有する株式会社宝島の支店であって、被告の前記取引行為は右会社の支店たる宝島天下茶屋店のためになされたものであることがそれぞれ認められる。〈省略〉。

右認定の事実によれば、原告が本件取引の相手方としていた宝島天下茶屋店は、実は、被告が代表取締役をしている株式会社宝島の支店であって、被告個人の経営にかゝるものではなく、本件取引における被告の行為は同店のための商行為の代理であることが明らかであるから、被告が右会社のためにすることを示さなくても、その行為は右会社に対して効力を生ずるものといわねばならない。

次に、原告の仮定主張について検討するに、原告は宝島今里店や宝島天下茶屋店との取引にあたり、朴達雄が被告らから取引の相手方が株式会社宝島の支店であることを知らされなかったため、原告発行の売上伝票や代金の請求書の名宛人欄には、単に「今里宝島」または「天下茶屋宝島」と記載したに過ぎないことは先に認定したとおりであり、このことにつき、右会社の代表者たる被告が何らの故障をも申し述べなかったことは弁論の全趣旨によって明らかである。そしてまた、〈証拠〉によると、右各店の看板や原告の売上伝票に対する受領のサインには、単に「宝島」と記載されているだけで、右各店が会社組織であることを表示するものは何一つ記載されていなかったことが認められるだけでなく、前記認定の事実に〈証拠〉を併せ考えると、右各店には双方併せて四、五人の従業員がいただけであり、また、前記の如く原告が右各店と取引した売掛代金の支払は専ら被告によってなされていて、その実権は被告によって掌握されていたので、原告会社の代表者らは、右各店はいずれも被告の個人経営にかゝるものであり、本件取引の相手方は被告個人であると信じていたことがそれぞれ認められる。〈省略〉。かかる事実よりすれば、当時は、原告において、株式会社宝島の代表者たる被告が同会社のために商行為をなすことを知り、または知りうべかりし事情になかったものというべく、かかる事情のもとにおいては、本件取引の相手方が右会社であることを知らなかったことにつき原告に何ら咎むべき過失はなかったものといわねばならない。

以上の如く、原告において、被告が右会社のために商行為をなすことを知らず、また知らなかったことにつき過失がなかったときは、商法第五〇四条但書により、取引の相手方保護のために、原告と右会社の代表者たる被告個人との間にも、右会社に対すると同一の本件取引による法律関係を生ずるものというべく、原告は、その選択に従い、右会社との法律関係を否定して、被告との法律関係を主張することができるものと解するのが相当である。〈以下省略〉。

(裁判官 鍬守正一)

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